「うちのお寺って浄土真宗?それとも浄土宗?」──
お葬式や法事を経験した方なら、一度は迷ったことがあるのではないでしょうか。
名前は似ているのに、お焼香の回数や位牌の扱いなど、儀礼の意味がまったく違います。
特に関西では、この二つの宗派が圧倒的に多く、地域の歴史や文化と深く関係しています。
今回の記事では、多くの葬儀を担当してきた葬祭ディレクターの立場から、
大手サイトでは触れない現場目線の違いと注意点を分かりやすく解説します。
宗派を選び新しくお寺を探す際に、後悔しないために宗派の違いを正しく理解しましょう。
なぜ関西には浄土真宗と浄土宗が多い?地域特性と歴史的背景
関西地方、特に京都や大阪、兵庫などで葬儀を行う際、「うちのお寺は浄土真宗」「うちは浄土宗」という声を聞くことが多いです。
実際に関西では、この二つの宗派のお寺や檀家さんは非常に多く、地域に深く根付いています。
また「浄土真宗」と「浄土宗」名前がすごく似ていますよね?
これは偶然ではなく、この二つの宗派の開祖は師弟関係にあったんです。
では、なぜこんなにも浄土真宗と浄土宗が関西に多く、どんな違いがあるのでしょうか?
まずは、それぞれの宗派の基本的な特徴と、関西で広まった歴史的背景をひも解いていきましょう。
浄土真宗と浄土宗の共通点
どちらの宗派も、阿弥陀如来(あみだにょらい)の慈悲を信じ、「南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)」という念仏を唱えることで、亡くなった後は「極楽浄土(ごくらくじょうど)」に生まれ変われる、という浄土信仰を根本にしています。
この二つの宗派の開祖である法然上人(浄土宗)と親鸞聖人(浄土真宗)は、師弟関係にありました。親鸞聖人は法然上人から直接教えを学んだお弟子さんになります。
浄土宗(開祖:法然(ほうねん)上人)
- 教えの核: 「ひたすら南無阿弥陀仏と念仏を唱えれば、誰でも阿弥陀如来の力で救われる(他力本願:他の力に頼る)」という教えです。
- 特徴: 自分自身の努力(念仏を唱える行い)と、阿弥陀如来の力(他力)の両方を大切にしながら、念仏を繰り返すことで救いを目指します。
浄土真宗(開祖:親鸞(しんらん)聖人)
- 法然上人のもとで学んだ親鸞聖人は、師の教えをさらに深く掘り下げました。
親鸞聖人は、「阿弥陀如来が私たちを必ず救うという約束(本願)を心から信じ、阿弥陀如来にすべてをお任せすれば、それだけで救われることが決まるんだ。」と説き、念仏はその救いへの感謝の気持ちとして唱えるものだと考えました(これを「他力本願」と言います)。 - 特徴: 阿弥陀如来への絶対的な信頼を一番に考えます。そして「浄土宗の教えの真実」を追求した結果として、「浄土真宗」という名前になったと言われています。
また、僧侶が結婚して家庭を持つことや、肉を食べることなどを早くから認めた宗派で、一般の人々と同じ生活を送りながら仏道を歩む、という親鸞聖人の考え方からです。
この考えが僧侶が剃髪(いわゆる坊主頭)せずに、一般の人と同じ髪型であることに繋がっています。
なぜ関西に多いのか?地域特性と歴史的背景
浄土真宗と浄土宗が関西に多い最大の理由は、どちらの宗派も「平安時代末期から鎌倉時代にかけて、京都を中心に生まれた新しい仏教の宗派」だからです。
法然上人と親鸞聖人は京都を拠点に活躍したため、つまり「発祥の地」が関西であったことが、その教えが最初に、そして最も強く根付いたのは自然な流れと言えるでしょう。
特に、浄土真宗の爆発的な普及には、ある一人の偉大な僧侶が大きく関わっています。
蓮如(れんにょ)上人の影響(浄土真宗)
親鸞聖人の後に浄土真宗を大きく広めたのが、室町時代に活躍した蓮如上人です。
彼は難しい仏教の教えを、誰にでもわかる簡単な言葉(ひらがなで書かれた「御文章(ごぶんしょう)」という手紙形式の布教文書など)で、農民や商人といった一般庶民に熱心に説きました。
当時の庶民は、厳しい生活の中で心のよりどころを求めており、「ただ阿弥陀様を信じるだけで救われる」というシンプルな教えは、爆発的に受け入れられました。
また、蓮如上人は「講(こう)」と呼ばれる信者さんの集まりを各地に作り、地域コミュニティに浄土真宗の教えを深く根付かせました。
僧侶が結婚して家族を持ち、世俗の生活を送りながら布教したことも、庶民が親近感を持ちやすかった理由の一つです。
特に、織田信長との激しい戦い(石山合戦)を通じて、信徒たちの結束力がさらに強まり、強固な教団として関西地方にその基盤を築き上げました。
しかし、これが元になり浄土真宗は西本願寺(本願寺派)と東本願寺(真宗大谷派)に分かれました。
浄土宗の強固な基盤
浄土宗の開祖である法然上人もまた、京都を拠点に活動し、当初から貴族から庶民まで幅広い層に支持されていました。
京都には浄土宗の総本山である知恩院があり、その歴史的・文化的な基盤が非常に強固です。
江戸時代に入ると徳川幕府からの保護も受け全国的に広まりますが、そのルーツと大本山が関西にあるため、特に京阪神地域では大きな影響力を持ち続けました。
関西以外の多いエリアは?
両宗派ともに「発祥の地が京都であること」に加え、浄土真宗は「蓮如上人の平易な布教と庶民層への浸透」、浄土宗は「歴史的な基盤と幅広い層への支持」という背景があります。
そして、現在でも関西地方に多くの信者と寺院が存在していますが、関西以外にも日本全国に広く分布し特に信者数が多いとされる地域があります。
- 浄土真宗:「真宗王国」と呼ばれる北陸地方(福井県、石川県、富山県)は、浄土真宗の信仰が非常に厚い地域として有名です。
これは、蓮如上人が布教活動を行った際に、北陸地方で熱心な信徒を獲得した歴史的経緯があるためで、北海道や九州の一部にも多くの信者がいます。 - 浄土宗:東海地方(愛知県など)や関東地方にも非常に多くの寺院と信徒がいます。特に江戸時代には幕府の保護を受けて全国に広まった歴史があり、大都市圏を中心に広く普及しています。
地域ごとの宗派の分布を知ることは、お葬式や法事を考える際のお寺選びに役立つ情報になるでしょう。
戒名と法名の違いとは?
仏教では、亡くなった方に「戒名(かいみょう)」や「法名(ほうみょう)」をつけます。
一般的に“戒名”は「戒(いましめ)を授かることで仏弟子となった証」であり、修行の意味を含みます。これは浄土宗や曹洞宗など、戒律を重んじる宗派の考え方です。
一方の浄土真宗では「法名」と呼び、戒律による修行ではなく、阿弥陀仏の本願を信じることで救われるという教えを重視します。
つまり、法名は「仏になるための修行の名」ではなく、「阿弥陀仏に救われた名」です。
この違いが供養の形や位牌の扱いにもつながっていきます。
浄土宗は“黒位牌”を使い、浄土真宗は“過去帳”を使う理由
お仏壇で目にする「黒位牌」。この位牌は、亡くなった方の戒名を記し、故人が仏弟子になった証として供養します。
つまり“位牌そのもの”が信仰の対象に近い扱いで、浄土宗をはじめ多くの宗派の考え方です。
しかし浄土真宗では考え方がまったく異なります。
浄土真宗では「亡き人はすでに阿弥陀仏のもとに生まれ、仏となっている」という教えが根本にあるため、故人を位牌で表すことはしません。
黒位牌の代わりに「過去帳」という帳面に法名を記し、家の仏壇(お内仏)に安置します。
拝む対象は位牌ではなく阿弥陀仏そのもので、ここに「戒名と法名の違い」がそのまま現れています。
浄土真宗と浄土宗「焼香の回数と作法」の違い
お焼香は宗派により「何回行うか」「どう行うか」が大きく異なり、浄土宗と浄土真宗でも違いがあります。
浄土宗でのお焼香の回数と作法
浄土宗では、「念仏を唱える行い」を大切にします。
- 回数: 基本的に1回〜3回行います。特に丁寧な作法として3回行うことが推奨されることが多いですが、1回や2回でも心を込めて行えば問題ないとされています。
- 手順:
- 焼香台の前に進み、故人様とご遺族に一礼します。
- お香をつまみ、額の高さまで持ち上げます(これを「押しいただく」と言います)。
- 静かに香炉(炭がある部分)に入れます。
- これを1回〜3回繰り返します(回数に応じて)
- 合掌し、故人様とご遺族にもう一度一礼して席に戻ります。
- ポイント: 回数に厳密な決まりはありませんが、一般的には3回が丁寧とされます。
ただし、葬儀会場の混雑状況や、ご導師(お坊さん)の指示、地域の慣習によっては1回や2回で行われることも多いため、迷った場合司会者の案内や前の人に合わせて行うのが最も安心です。
浄土真宗でのお焼香の回数と作法
浄土真宗では、「阿弥陀如来を信じる心」が最も大切であり、お焼香は「心身を清め、感謝の気持ち」を表すものとされています。
- 回数: 本願寺派(西)では1回、大谷派(東)では2回行います。
- 手順:
- 焼香台の前に進み、故人様とご遺族に一礼します。
- お香をつまみますが、額の高さまで持ち上げません(押しいただかない)。
- そのまま静かに香炉に入れます。
- 合掌し、故人様とご遺族にもう一度一礼して席に戻ります。
- ポイント: 浄土真宗では、「自分の行い(自力)で救われる」という考えを否定するため、「押しいただく」という作法は行いません。これは「阿弥陀如来の力(他力)によってのみ救われる」という教えからです。間違って押しいただいてしまっても、咎められることはありませんが、違いを知っておくと良いでしょう。
香典袋の表書きの違い
お葬式に持参する香典袋の表書きも、宗派によって適切なものがあります。特に「御仏前(ごぶつぜん)」と「御香典(ごこうでん)」の使い分けは、宗派の考え方が色濃く反映される部分です。
浄土宗の場合
浄土宗では、亡くなった方は四十九日を過ぎてから「仏様」になると考えられています。
- 四十九日前: 故人様がまだ「霊」の状態であると考えられるため、「御香典」または「御霊前(ごれいぜん)」を用いるのが一般的です。
- 四十九日以降: 故人様が「仏様」となられた後は、「御仏前」を用いるのが適切です。
- 常に使える表書き: 「御香典」は宗派や時期を問わず広く使えるため、迷った場合に最も無難な選択肢です。
浄土真宗の場合
浄土真宗では、人は亡くなるとすぐに阿弥陀如来の力によって「仏様」になり、極楽浄土へ往生すると考えられています(これを「即得往生(そくとくおうじょう)」と言います)。そのため「霊」という段階を経るという考え方がありません。
- 通夜・葬儀・四十九日以降、いつでも:「御仏前」のみが正しい表書きです。
- 避けるべき表書き: 「御霊前」や「御香典」は使いません。
- ポイント: 亡くなった方の霊を弔うのではなく、仏として敬う信仰姿勢が「御仏前」として表れています。
共通の注意点
薄墨を使う: 香典袋の表書きは、薄墨で書くのがマナーです。「悲しみの涙で墨が薄まる」という気持ちを表します。
不幸が重ならないように: 不幸が重なることを連想させる「重ね言葉」(例: 「重ね重ね」「またまた」「くれぐれも」など)は、お悔やみの言葉で使わないように注意しましょう。
「うちの宗派はどっち?」不安を解消する確認方法と、もし不明な場合の対処法
自分の家の宗派は、親族への聞き取りや仏壇や位牌で確認できます。
親族に尋ねてみる
最も手早く判明する方法は、年長者の親族に教えてもらうことです。
菩提寺が分かれば、その寺の宗派があなたの家の宗派になります。
ただし、同じ名前のお寺は多くあるので、寺院名だけでなく電話番号や正確な住所も併せて教えてもらいましょう。
仏壇・位牌・戒名(法名)から推測する
仏壇に祀られている御本尊を確認することで手がかりが得られます。



上記の通り、阿弥陀如来の背景が異なるのでお仏壇(浄土真宗ではお内仏)の御本尊を確認すれば宗派が分かります。
浄土宗は塗位牌で浄土真宗は過去帳と区別されています。
しかし、地域によっては浄土真宗でも塗位牌で祀られていることもあるので注意が必要です。戒名(法名)を確認すれば宗派が分かります。
浄土真宗では「(△△院)釋〇〇」と「釋」+2文字で構成されています。(女性は「釋尼」の場合がある)
浄土宗は「(△△院)□誉〇〇信士」と戒名に「誉」が入っていたり、戒名の上に記号のような文字(梵字)が記されていることもあります。
菩提寺との関係、故人の業績、男女の違いで「信士」が「信女・居士・大姉」の場合もあります。
また宗派により「誉」が「空・良・阿」となる場合もあります。
宗派選びで迷わないために|葬祭ディレクターからの提言
「僧侶は紹介してほしいけど、宗派にこだわりはない」と言われる方に提案する方法を紹介します。
葬儀の際は、法名や戒名を記した白木位牌を祀りますが、四十九日法要を目途に塗位牌や過去帳に移すことは上記で述べた通りです。
そして、自宅の広さ、後継者の不在などの問題から、葬儀の後でも仏壇を購入しない方が増えています。
お仏壇を購入するつもりがなければ、「塗位牌か過去帳、どちらに手を合わせるか」で宗派を決める方法もあります。
過去帳は文字通り「帳面」で、複数のご先祖様の法名を記すための帳面です。
後継者がいない方の過去帳に記されるのは一人だけです。
過去帳が手元にある方は、葬儀の際に法名を僧侶に書き写してもらえば以降の費用はかかりません。
塗位牌に手を合わせる光景に馴染みがある方は、過去帳に抵抗があるかもしれません。
そのような方には、浄土宗の塗位牌を祀る供養がしっくりくるでしょう。
仏壇を購入せずに小さい遺影写真の隣に塗位牌を安置して手を合わせる方も多くいらっしゃいます。
お仏壇に手を合わせることで気持ちは落ち着きますが、後継者のいない方には負担が大きくなることもあります。
最後に
今回の記事は、「浄土真宗」と「浄土宗」の違いについて解説しました。
「宗派の違い」は、葬儀の形式や供養の仕方だけでなく、家族の心の拠りどころにも深く関わります。
浄土宗は手を合わせる行いを重んじ、浄土真宗は阿弥陀仏を信じる心を重んじる。
もし、宗派が分からない・お寺との関係が薄いという場合でも心配する必要はありません。
今回の記事が、あなたやご家族が「納得のいくお葬式」を考えるきっかけになれば幸いです。
私の今までの経験と知識を元に作成したので、異論があることは承知しています。
僧侶、同業者からのご意見ご指摘などはお問い合わせフォーム、下記のコメント欄からお願いします。



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