故人の遺志を尊重して、遺骨を海に還す「海洋散骨」
お墓を建てない新しい供養の形として注目が高まる一方で、
「違法ではないの?」
「費用はどれくらい?」
「信頼できる業者はどう選べばいい?」
上記のような不安や疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
今回の記事では、現役の葬祭ディレクターである私が、海洋散骨の費用や種類、注意点までを網羅的に解説します。
あなたが納得のいく選択をするために、プロの視点から客観的な情報をお届けしますので、ぜひ参考にしてください。
海洋散骨とは
海洋散骨について基本的なことを案内していきます。
散骨の基本的な定義と歴史
散骨とは遺骨をお墓に納めずに、海・山・川などに撒いて自然に還す供養の方法のひとつです。
日本ではお墓を建てて遺骨を納めることが一般的です。
しかし散骨の歴史は古く、7世紀後半から8世紀後半にかけて編纂された万葉集に散骨を読み込んだ句が載っています。
散骨は古くからある供養の方法のひとつです。
近年では少子化や未婚率の増加で、ご先祖のお墓の維持が困難になったり、伝統的なお墓に遺骨を納めない供養として「散骨」に注目が高まっています。
散骨は違法では?
遺骨をそのままの形状で撒くことは、刑法第190条の遺棄罪として罰せられる可能性があります。
自宅の庭、公園や山などの墓地以外の場所に遺骨を埋めると罰則の対象になります。(墓地、埋葬等に関する法律)
しかし、一定の条件で遺骨を埋めずに撒く散骨は違法ではありません。
2021年3月に厚生労働省が発表した「散骨に関するガイドライン」では、以下のことが記載されています。
- 陸上での散骨は、特定の場所で行うこと(川や湖を除く)
- 海での散骨は、陸から離れた沖合で行うこと
- 散骨する遺骨は、粉末状に砕くこと
- 自然環境に悪影響を及ぼすことはしない
- 近隣住民や漁師などの利益や宗教観、及び自然環境を害さないこと
また市区町村が条例で散骨を禁止したり、規制しているエリアもあります。

厚生労働省のガイドラインによると川や湖で散骨はできません。
川や湖の水は生活用水で利用されているため、下流で生活している方の利益を害さないように配慮しているためです。
周囲を海で囲まれた日本では、海は生活に密接した場所で、散骨=海洋散骨いう認識が一般的に広まっているのでしょう。
海洋散骨の費用相場と3つの種類を解説
海洋散骨の費用は、選択するプランにより大きく変動します。
ここでは、費用相場と3つの主要な種類を解説します。
個別チャータープラン
家族だけで船を貸し切り散骨を行います。
場所と日時を都合に合わせて設定でき、家族だけで心ゆくまでお別れができます。
費用は20~40万円ほどになります。
合同散骨プラン
複数の家族で船を貸し切り、家族ごとに場所と時間をずらして散骨をします。
自分たちの手で散骨ができますが、他の家族も乗船されているので心ゆくまでお別れできないかもしれません。
費用は10~20万円ほどです。
代理散骨プラン(委託散骨)
家族は同行せずに、散骨を業者に任せる方法です。
業者が複数の遺骨を預かり、ある程度集まったら散骨を行います。
遺骨を郵送すれば、以降の手続きは全て業者が行ってくれます。
散骨した証明書が発行されたり、散骨した際の写真をサービスやオプションで行ってくれる業者もあります。
費用は5万円ほどです。
遺骨と「六価クロム」の真実【葬祭ディレクター解説】
海洋散骨を検討する上で、後悔しないために必ず知っておくべき重要な注意点がいくつかあります。
ここでは、多くの火葬場を見てきた専門家としての視点から特に重要なポイントを解説します。
六価クロムとは?なぜ遺骨に付着するのか?
海洋散骨でネット検索すると「六価クロム」の危険性について表示されます。
六価クロムは「アスベスト」と並ぶ、二大発ガン物質の1つで、LARC(国際がん研究機関)からもリストアップされています。
単体のクロムは岩石や土壌火山灰などに含まれている金属の一種で、顔料にも含まれている無害な物質です。
六価クロムはクロムと別の物質で、人体や骨に含まれることもありません。
なぜ遺骨から六価クロムが検出されるのでしょうか?
ステンレスを長期間にわたり高熱でさらすことが、六価クロムが発生する原因の一つです。
ステンレスは一部の火葬炉で棺を置く架台に使用されています。
火葬した際に、ステンレスから発生した六価クロムが遺骨に付着すると考えられています。
六価クロムと高熱でさらしたステンレスの関係は、群馬県吾妻郡中之条町の高濃度六価クロム燃焼灰の発生原因と対策 資料 1に分かりやすく書かれています。
ステンレスを使用しない架台では、遺骨に六価クロムが付着することはありません。
また海洋散骨と同じように遺骨を自然に還す樹木葬については、六価クロムと土壌汚染の関係について述べている記事を見つけることができませんでした。
もし遺骨に付着する六価クロムによる土壌汚染があれば何らかの対策がされるはずです。
六価クロムの対策は東京都江戸川区で過去に行われていました。六価クロム鉱さいによる汚染土壌
葬儀のプロとしてお伝えしたいのは、遺骨に六価クロムが検出されたとしても、日常生活で健康被害が出る可能性は極めて低いということです。
遺骨に付着した六価クロムは気化せず、水溶性のため、手で触れても、自宅に安置していも問題はありません。
ただし、水で濡れた手で遺骨に触れたり、口に入れたりすると六価クロムの影響を受けるかもしれません。
海洋散骨に向いている方の特徴
伝統的なお墓を建てない代わりの手段には、他に樹木葬や納骨堂に納めるなどがあります。
特に樹木葬と海洋散骨は「遺骨を自然に還す」という点が似ていますが、この2つには大きな違いがあります。
樹木葬と海洋散骨の決定的な違い
| 項目 | 樹木葬 | 海洋散骨 |
| 遺骨の管理 | 遺骨を埋めた場所の管理は事業者が行う。 | 遺骨は海に撒くと潮に流されるので、遺骨の管理は不要。 |
| 場所 | 同じ場所に数十、数百柱の遺骨を埋めることはできない。 | 撒くと流されるので、同じ場所を制限なく使用できる。 |
| 費用 | 場所の管理費用がかかるため、海洋散骨よりも高額になることも。 | 場所の管理が不要で、費用を抑えることが可能。 |
上記の点を踏まえ、海洋散骨は特に以下のような方に向いていると言えるでしょう。
故人の遺志
「死んだら骨は故郷の海に撒いて」「想い出の海に撒いてほしい」など故人の生前の希望を叶えることで、故人だけでなく家族の心も満たされるはずです。
お参りする方がいない
一人っ子で後継者がいない等で、お参りに来る方がいない方。
お墓を解体・撤去する【墓じまい】の後、遺骨を海に撒いて管理者を必要としない海洋散骨は検討に値するでしょう。
費用・場所がない
墓地・墓石の購入には相応の費用と、場所の選定が必要です。
海洋散骨は墓地を購入するよりも、いつでも安価に申し込めます。
好きな場所を選べる
旅行で訪れた、帰りたかった故郷、思い入れのある海など、好きな場所で散骨したい方。
散骨する場所は一か所だけでなく、複数の場所でもできます。
信頼できる散骨業者の選び方
墓地の運営には行政の認可や法律や条例で規制されていますが、海洋散骨には明確な法的ルールはありません。
大切な方の遺骨を預ける業者を選ぶ際には、以下のポイントを確認してください。
- 自主ルールを遵守しているか: 一般財団法人 全国海洋散骨船協会や一般財団法人 日本海洋散骨協会といった団体に加盟しているか。
- 粉末状にした遺骨の大きさを決めているか: 粉骨の大きさが不十分だと、遺棄罪に問われる可能性もあります。
- 散骨する場所が適切か: 陸から離れた沖合で行うなど、散骨場所が適切であるか。
- 副葬品に規定があり環境保護に留意しているか: 自然に還る素材(紙や花など)以外の副葬品は持ち込めないか。
最後に
海洋散骨は、樹木葬や納骨堂と異なり管理者が不要です。
安価に抑えることができることも注目が高まっている要因のひとつです。
和歌山県美浜町では「ふるさと納税」で散骨がラインナップされています。

海洋散骨は遺骨への執着がない方、供養を必要とされない方には最も合理的な方法の一つだと思います。
遺骨の供養する方法について悩んでいる方には、選択肢のひとつとして検討してください。
記事について、ご意見・ご指摘などございましたらお問い合わせフォームからお願いします。




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