エンバーミングは徐々に認知されている言葉です。
日本語でエンバーミングは「遺体衛生保全」と訳されています。
事前相談でエンバーミングの話題が出たり、葬儀の打ち合わせで提案することが増えてきました。
誤解されたり、「湯灌(ゆかん)」と混同されている方も多いと感じます。
以前にエンバーミングを依頼して後悔された方もいらっしゃいます。
今回は、エンバーミングと湯灌で後悔しないために、知っておくことや注意することを解説します。
上記のような疑問を解決できるよう作成しました。
エンバーミングとは
エンバーミングとは、以下の手順で進めます。
- ご遺体を専用の施設まで連れて行く。
- 衣服を脱がして全身を洗浄する。
- 感染症の予防のために消毒、殺菌する。
- 防腐処置を行い、必要に応じて修復する。
- 希望に合わせて口ひげ・あごひげを整え、化粧する。
- 遺族の希望する衣装を着せて棺に納める。
- 式場や自宅など葬儀を行う場所に連れて行く。
防腐処置では、腹腔の体液や残留物を除去するために外科的な処置を行います。
そして血液をアルデヒド系の防腐剤と入れ替えます。
エンバーミングではご遺体を切開するので、文書による遺族の同意が必要になります。
日本では火葬が前提なので、保全期間は50日とIFSA(一般財団法人日本遺体衛生保全協会)の基準で決められています。
エンバーミングの特徴は以下の通りです
エンバーミングの特徴を把握しておくことで、必要なサービスであるのか判断できます。
エンバーミングの現状
エンバーミングを施術するのは「エンバーマー」と呼ばれる専門職です。
日本でエンバーマーになる主な方法は、IFSAが認定した2年制の専門学校で勉強して、卒業後に資格を取得することです。
日本では約300名のエンバーマーが全国で活躍されています。
1人のエンバーマーが処置できるのは最大で1日2~3件だそうです。
2022年のエンバーミング件数は70,597件です。
2020年のエンバーミング件数は53,041件なので2年で約18,000件増えています。
2022年の死亡数は156万8961名でした。
エンバーミング処置された方は全体の約4.5%です。
これからも件数は減ることはなく、増えていくことが予想されています。
増えていく要因として、火葬場の老朽化による火葬件数の減少、死亡数の増加による火葬までの待機期間の長期化による遺体の保全対策などが挙げられています。
また、エンバーマーは毎年増えているので、供給の点からも件数は増えていきます。
2023年においてエンバーミング処置できる施設は、日本に85か所あり28事業会社が運営しています。
エンバーミング施設は、北海道から沖縄まで全国に点在していますが、47都道府県の全てにはありません。
専用の設備が必要なので、自宅や式場でエンバーミング処置をすることはできません。
エンバーミング施設を運営するのは、葬儀社と納棺業者です。
葬儀社がエンバーミング施設を運営することで、エンバーミングを自社商品として販売することができます。
納棺業者は、エンバーミング施設を所有しない葬儀社からの依頼を受けたり、自社のホームページで遺族から直接依頼を受けています。
エンバーミングの価格は15~25万円です。
エンバーミング施設への搬送料金が加算されることもあります。
湯灌(ゆかん)とは
湯灌とは、ぬるま湯で故人の体を清める儀式です。
髪や顔を整えて、体をきれいにして旅立ちの衣装に着せ替えます。
故人の現世での穢れを流して、清らかな体で浄土へと送り出す宗教的な意味もあります。
以前は家族や近所の方が棺に納める前に行っていました。
最近では、納棺師と呼ばれる専門職が行います。
納棺師による湯灌の流れは以下の通りです。
- 口・鼻・耳・肛門の詰め物を交換する。
- 身体の清拭を行う。
(体を拭き清めたり、専用の湯舟で洗い流す。) - 衣装を着せ替える。
- 希望に合わせて口ひげ・あごひげを整え、化粧して棺に納める。
納棺師は専門職ですが、エンバーミングのような資格を必要としません。
しかし、吐出を抑える・着せ替え・化粧・口を閉じるなど高度な技術が必要です。
口腔などに詰め物をして、表情を穏やかにすることもできます。
湯灌は故人の外観を整えることはできますが、腐敗の進行を抑えることはできません。
ゆるま湯で全身を温めると、腐敗の進行が加速すると指摘する方もいます。
アルコールや濡れたタオルで全身を清拭して、ドライシャンプーで洗髪することで対応は可能です。
納棺師が故人の状態を判断して対応するので、過度な心配は不要でしょう。
金額は10万円前後になります。
タオルで清拭して着せ替える簡易的な湯灌であれば、金額を抑えることができます。
エンバーミングと湯灌の違い
外科的な処置を行うエンバーミングでは、専用の施設で行うので立ち会うことはできません。
エンバーミングの施設では対面することもできません。
湯灌は場所を問わずに行うので、遺族は立ち会い、化粧・納棺の手伝いをすることが可能です。
エンバーミングは衛生保全と腐敗防止を目的としています。
湯灌の目的は故人の外観を整えることで、
衛生保全が目的ではなく、腐敗の進行を抑えることはできません。
腐敗の進行を抑えるために、ドライアイスや安置室の温度を調整して、ご遺体を低温にします。
葬儀までの日数がかかる場合には、ドライアイスの追加料金が発生します。
一般的なドライアイスの追加料金は、一日で\10,000前後です。
葬儀日までに故人と対面したい場合は、湯灌では問題ありません。
エンバーミングを依頼したら、希望通りの時間に対面できません。
湯灌は故人の安置している場所で行いますが、エンバーミングでは専用の施設に搬送しなければなりません。
葬儀日までに多くの時間を故人と対面を希望する場合は、湯灌かエンバーミングのどちらを選択するのは葬儀社と十分に話してください。
エンバーミングで注意すること
火葬まで3日程度なのに湯灌でなく、エンバーミングを強く勧める葬儀社(担当者)は、葬儀単価を上げるために販売していると、個人的には思います。
エンバーミングは葬儀社(担当者)の都合で案内されます。
エンバーミング施設を運営している葬儀社に依頼したら、エンバーミングが不要でも強く勧められることもあります。
エンバーミング施設を持たない葬儀社では、エンバーミングは湯灌との比較で軽く案内されるぐらいかもしれません。
四国の四県にはエンバーミング施設がないので、四国ではエンバーミングを勧めらることはないでしょう。
本当にエンバーミングが必要なのかは、遺族が判断するしかありません。
葬儀関係のブログを色々とみていると、「エンバーミングは不要」と主張する葬儀関係者もいます。
個人的には、「エンバーミングが必要な方もいる」です。
本当に必要だと思えば強く勧めますし、不要なら軽く説明するだけです。
納棺師による処置だけで済むなら説明さえしません。
私がエンバーミングを勧めるのは以下の場合です。
高齢で闘病で亡くなった方は、やつれるのが普通です。
やつれた姿が闘病の証であり直視することが労わってあげることだと、私は考えます。
最後をどのような姿で送り出すか、遺族の意志で選択できます。
低温に管理できる施設に安置をすれば、一週間程度であっても顔色の変化が目立たない方も多くいらっしゃいます。
私個人的には、火葬まで日数があるだけでエンバーミングを勧めません。
エンバーミングと一般的な方法として勧める葬儀社(担当者)は疑ったほうがいいでしょう。
繰り返しますが、日本のエンバーミングの普及率は約4.5%です。
3~5日程度でもエンバーミングでなく、ドライアイスと納棺師の処置だけで対応している方が大半です。
エンバーミング処置では湯灌と同様のことを行います。
またドライアイスと納棺師による処置も不要です。
湯灌を必要と勧められたら理由を確認してください。
最後に
エンバーミングは必要とされている方には、「依頼してよかった」と満足していただけます。
故人のために、できることは全部したいとエンバーミングを希望される方も多くいらっしゃいます。
遺族が希望することを、葬儀社は可能な限り商品として提供します。
エンバーミングは高額なサービスなので、葬儀社には魅力的な商品です。
そのために湯灌で対応できることを、エンバーミングに置き換えて説明する葬儀社もあるようです。
エンバーミングは書面による遺族の同意が必要なサービスです。
同意して書面にサインをするのは消費者であるご遺族です。
正しい知識を持つことが後悔しない方法の1つです。
今回の記事について、ご不明な点・より詳細な説明が必要な方はお問い合わせフォームよりお問い合わせください。
エンバーミングについて疑問などあれば分かる範囲でお答えします。
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